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(右)ヤマハ発動機株式会社 執行役員 IT本部 本部長 小野豊土氏
(左)三井物産セキュアディレクション株式会社 執行役員 関原優
(インタビューは2025年11月17日に実施)
サイバー攻撃が国境を越えて拡大し、海外子会社・グループ会社の侵害を起点に、本社・全社へ影響が波及する事例が増えています。こうしたリスクに備えるため、グローバル全体での統制(ガバナンス)とセキュリティ対策の推進が急務となっています。
ランドモビリティを軸に幅広い事業を、180以上の国や地域にまたがり展開しているヤマハ発動機は、まさにこの課題に正面から取り組んできました。三井物産セキュアディレクション(MBSD)の知見も活用しながら、実効性あるグローバルセキュリティフレームワークの整備を推進しています。この取り組みを推進しているヤマハ発動機株式会社 執行役員 IT本部 本部長 小野豊土氏に、取り組みの背景・手応え・今後の展望を、MBSD執行役員の関原優が尋ねました。
サイバーセキュリティは、DXの加速に不可欠な「高性能な制御装置であるべき」
関原:ヤマハ発動機という会社の特徴をお聞かせください。
小野:東海エリアに本社を持ちグローバルを見ている、とてもユニークな会社です。売上規模は昨年で2.5兆円になりますが、その大半を日本以外の地域が占めています。連結子会社も海外に約130社あり、ヨーロッパ、アメリカ、南米、東南アジアと全世界に展開しています。また、商材が多種多様に渡っていることも特徴です。オートバイやゴルフカー、自転車といったランドモビリティやボートなどのマリンプロダクトに加え、産業機器などのB2Bビジネスや金融サービスも手がけています。
ヤマハ発動機はエンジン技術をコアに幅広い商材を展開していますが、我々が大事にしているのは、コーポレートメッセージでもある「感動創造企業」ということです。お客様とともに感動するだけでなく、社員とともに考え、成長し、感動していこうという価値観を持つ人が多い会社だと思っています。私自身、インドネシアやアメリカでの駐在経験を通じて、「現場が主役」という信念を持っています。コーポレート部門が一方的に強制するのではなく、現場のことを一番知っている現場の方々とともに考え、取り組むことが企業全体の成長を支え、また現場からの感謝につながるという思いでやってきました。
関原:世界でビジネスを展開し、特に海外事業の比率が非常に高い中、セキュリティの強化にどのように取り組まれてきたのでしょうか。
小野:私たちはサイバーセキュリティを、企業の成長を支え、適切にコントロールするためのブレーキだと捉えています。いわば「攻めのサイバーセキュリティ」です。
車やオートバイで思いきり加速をするために重要なのはブレーキです。必要な時に、適正な量で止まれる安心感があるからこそ、アクセルをぐっと踏み込むことができます。ブレーキが効かない中でアクセルを踏むのは無謀運転ですし、かといって急ブレーキを踏めば、ガツンと反動がかかってしまいます。素早くコーナーを曲がるには、適切にコントロールしながら、微妙なブレーキタッチをかけていかなければいけません。セキュリティにはそんなバランスが求められ、私自身、企業を加速させていくDXとセキュリティとの適切なバランスを考慮しながら、日々活動しています。
関原:その考えのもと、2025年にサイバーセキュリティ推進部を立ち上げ、施策を進められてこられていますね。
小野:昨年までは「プロセスIT部」の中にあるグループがサイバーセキュリティを担当してきました。しかし今や経営も、サイバーセキュリティを、品質などと並ぶ企業にとっての重要なリスクの一つとして定義し、注力する方針を明らかにしています。ガバナンス力を高め、よりしっかり活動していくために組織を格上げしました。
背景には、サイバーセキュリティの世界は「民主化」ではないという現実があります。海外に130社に上る子会社があり、各地域で活動している中、合議制でサイバーセキュリティは進みません。現場は尊重しつつも、本社がリードして統制を効かせる必要がある─これは取締役会でもよく指摘されてきました。
その方針を体現するために本社に部門を新設し、さらに社長からの権限委譲を受け、サイバーだけでなく全世界のリスクをハンドリングする責任者であるCROも任命しています。サイバーセキュリティも含め、ヤマハ発動機としてガバナンスを効かせ、リスク対応力を高めていく活動を進めています。
関原:海外の投資家などステークホルダーの視点からも、サイバーセキュリティに対する取り組みが問われるようになりました。御社も実感はあるでしょうか。
小野:そうですね。経営者自身が自らの言葉で語り、アカウンタビリティを果たしていく必要性をひしひしと感じているように思います。海外の投資家の方々から見てもわかりやすい組織構造を取り、リスクを定義し、マネジメント層が語れるように説明できる状態を意識しながら活動を行っています。
社内向けのメッセージだけでなく、人命を預かる我々の製品が安心・安全をどう確保しているかを説明するのと同様に、サイバーセキュリティの面でもどのように安心・安全な環境を作っているかを株主様やお客様に出していくことが重要だと考えています。
メーカーならではの多様なセキュリティ人財のキャリアパス
関原:MBSDはヤマハ発動機様のグローバルガバナンス体制の強化を長年ご支援してきました。どのような点をご評価いただいているでしょうか。
小野:MBSDの皆さまとお話してまず思ったのは、ヤマハ発動機の社員以上にヤマハ発動機の製品に愛着を持っている人がいることに驚きました。セキュリティに関する知識や技術もさることながら、ヤマハ発動機という会社にこれほど愛着を持っていただけていることはうれしいことですし、その熱量を今も節々に感じることが、長い間お付き合いの大きな要素だと思っています。
関原:実際、ご支援させていただく前から、ヤマハ発動機様のバイクを乗り継いでいるメンバーもおりましたが、セキュリティの対応全般に関わらせて頂く中で、守るべき会社や製品に対して愛着が出てくるのだと思います。私自身も、一緒にセキュリティ体制を作り上げていく中で、インシデント対応のような緊迫した局面も含めて、皆さまと仲間としての一体感を非常に感じています。
今後、ガバナンスをより一層強化していくうえで、具体的にどのような取り組みをお考えでしょうか。
小野:ヤマハ発動機では、2024年の中期経営計画の中でDXを掲げ、データ分析の民主化活動を促進しています。いろいろな部門でデータを使いこなせるコア人財を増やし、その人たちが伝道師となってデジタル活動を促進することで、現場の課題を解決し、現場の方々に幸せになってもらうことが目的です。
ただ、そうやってデータ民主化が進み、データを扱える人財が増えていくと、サイバーセキュリティをどのように捉えるかが課題となってきます。ブレーキを強くかけすぎて会社のスピードを落とさないよう、今まで以上に適切なバランスが求められます。
すべてがつながる環境では、全体を俯瞰的に見てセキュリティ対策を検討していかなければ、どこかに残っていた穴から侵入され、全世界に被害が広がりかねません。それを避けるために、全世界で均質的にセキュリティ対策の底上げをしていかなければならないと考えています。
関原:人財戦略や体制強化については、どんなアプローチを検討されていますか。
小野:「ヤマハ発動機が好きだからこそ実現できるサイバーセキュリティ」を実現できる人材を増やしていきたいと考えています。
今、ヤマハ発動機のIT・セキュリティ人財は、外部でキャリアを積んで中途採用で入ってきた人たちと、ヤマハ発動機が好きで新卒で入社し、たまたまIT部門に配属された人との二極化が進んでいます。前者のキャリア人財に対しては、ヤマハ発動機として大切にしている現場との関係性や感動を作り上げていくといった理念、いわば「ヤマハらしさ」をお伝えしています。一方、新卒で入社された方々は会社としてのフィロソフィーは理解していますが、MBSDさんのような超エキスパートとまではいかなくとも、どのようにセキュリティに関する知見を身につけていくかが問われます。
ヤマハ発動機全体に視野を広げると、実はすでにさまざまなコネクテッド製品を提供しており、いわゆるDevSecOpsと言われるセキュリティを考慮しながらの製品開発が重視されています。ですので、サイバーセキュリティに関する知見を持った人財ならば、製品開発の分野で、あるいは自動化が進んでいる工場現場のファクトリーサイエンティストとして活躍することもできます。つまり、ヤマハ発動機というメーカーだからこそ、セキュリティエンジニアが輝ける道がたくさんあるのです。従来のIT部門、セキュリティ部門に閉じることなく、ヤマハ発動機全体の中でいろいろな経験を積んでいただくことができますし、そういう価値観を実感できる教育プログラムを作っていきたいと考えています。
関原:コーポレートIT部門と現場の双方を経験しながら人財を育てる非常に重要な取り組みだと感じます。
小野:すでに、先ほど触れたDXを加速させるため、IT部門と生産技術本部が手を組んで「現場サイエンティスト教育プログラム」を展開しています。サイバーセキュリティの要素も盛り込みながら、現場のDXを加速させるための知見を提供し、現場の人財育成を進めています。こうした知見を身につけた人財が、今度は生産本部や調達本部のようなオペレーション部門で活躍することも期待しています。こういったローテーションが可能なのも、メーカーならではだと思っています。
育った人財を生かすため、今重視しているのは、組織文化と賞賛のデザイン作りです。セキュリティの仕事というのは、何かあると寝てなどいられないような状況になる、ストレスの大きい職場です。だからこそ、真剣に取り組みながら、一方でハイプレッシャーな状況を次の成長につながると捉えて前向きに楽しみながら、対策を進められるような組織文化を根付かせていきたいと思っています。
ヤマハ発動機社内ではDX活動の一環として、優れたデジタル化活動を発表し、表彰する「Happiness Data Expo」を開催しています。このアプローチをセキュリティの文脈でも活用し、「こうした形で会社を守っている」ということを示し、褒めてもらえるような場を作っていきたいと考えています。
セキュリティ技術を極めたい方はMBSDの皆さまのような専門的な企業に行くのがいいかもしれません。ただ、セキュリティを強みにしつつ、幅広い経験を積んで大きく成長したい方にとっては、ヤマハ発動機にはいろいろなチャンスがあると思います。
関原:私たちはセキュリティのスペシャリストとして、専門性を持ってご支援させていただいているわけですが、御社とともに働く中で、明示的に教育サービスを提供しているわけではなくとも、一緒に働いている中で皆様が学び、レベルアップしていく様を目の当たりにしており、刺激を受けています。現地に足を運んで一緒に対応に当たる機会が何度もありましたが、我々も学ぶところが多くありました。
専門性が求められる部分では外部の力を活用しつつ、チームとしての取り組みを社内外に紹介することで、「自分たちの取り組みはこれだけの価値があることなんだ」と感じられるような環境をともに作り上げていくことが重要ですね。
小野:そうですね。御社のエキスパートと、ヤマハ発動機の中で成長しているメンバーが対話を重ねることで、外部の知見を取り込んでさまざまな気付きや刺激を受け、成長につながっています。御社とタイアップしながらのチームワークが、非常に好ましい状況になっていると思います。
多様性xプロの知見で世界規模の対応力を高める
関原:これまでの取り組みで、特に手応えを感じている部分は何でしょうか。
小野:2022年から24年の中期経営計画ではデジタル化が脚光を浴びましたが、このとき同時に、セキュリティ対策についてもさまざまな仕込みを進めていました。そうやって蒔いてきた種が、2025年以降にいよいよ、ヤマハ発動機のデジタルを加速させるためのブレーキとして機能できるようになっていると思います。我々の環境の中で何が起きているかを把握しながら、適切な加減でブレーキをかけられるようになってきています。今後は、海外のメンバーと適切にコミュニケーションを取れる体制をどのように作っていくかが、次なるチャレンジだと捉えています。
関原:体制強化の中でも、特に注力していきたいポイントはどこでしょうか。
小野:多様性を非常に大切にしています。2025年は中国やインドといった国々の子会社に、セキュリティを担当できるメンバーを増やし、部門作りを進めてきました。日本人だけでなくインド人や中国人などさまざまな国の異なるバックグラウンドや知見を持った人間が混ざり合い、会話の機会を増やすことで、対応力を高めていきたいと思っています。
たとえばアメリカはセキュリティ業界の先端を行っており、関連する知見も豊富です。ヨーロッパには法規制対応に詳しい人財がおり、それらに準拠するためにどういった対策を検討すべきかのノウハウを持っています。また、インドや中国などでは、それぞれの環境に応じてどういったケアが必要なのかがわかります。このように、多様な人々をミックスしたチームを作ることで、知見を持ち寄り、世界規模での対応力が高まると期待しています。
もう一つ、ジェンダー面での多様性も推進しています。実は我々のセキュリティチームにはグループリーダーも含めて女性が多く活躍しています。ここでも異なる視点を持つ人たちと意見をぶつけることで、非常にいい化学反応が起こり、組織を強くしていくことができると思っています。
関原:MBSDはグローバル企業のインシデント対応体制を支援するために、ニューヨークなど海外拠点に駐在員を派遣しています。三井物産が出資している米国やマレーシアなどのセキュリティ会社などとの連携や、三井物産のグローバルネットワークを活用して、グローバル企業様の支援体制を拡充しています。今後も、ヤマハ発動機様のセキュリティ対策はもちろんのこと、多様な環境での組織の強化を一体となってご支援していければとあらためて感じました。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
また、セキュリティ人財が非常に枯渇している中、高い専門性を持ち、我々では追いつきにくい技術やトレンドを素早くキャッチアップしている御社のような企業とパートナーを組むことは非常に重要だと考えています。特に、仲間意識を持ちながらも、また我々の状況やレベルを客観的に把握した上で、「今必要なのはこれです」と顧客起点で提案していただけるMBSDさんのような会社との協力は非常に重要だと感じています。