本サイトは、快適にご利用いただくためにクッキー(Cookie)を使用しております。
Cookieの使用に同意いただける場合は「同意する」ボタンを押してください。
なお本サイトのCookie使用については、「個人情報保護方針」をご覧ください。
ソフトウェア開発において、従来は開発の後工程でセキュリティ対策を集中的に行う手法が一般的でした。
しかし、この手法ではリリース直前に脆弱性が発見された場合、修正コストやスケジュール遅延は避けられません。
そこで注目されているのが「シフトレフト」です。
これは、ソフトウェア開発サイクル(SDLC)の初期段階からセキュリティ対策を組み込み、コスト削減と品質向上を同時に実現する手法です。
本記事では、シフトレフトの基本的な考え方と注目される背景、導入によるメリット、さらに具体的な実装方法や導入時の注意点までを詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
シフトレフトの基本と注目される理由
シフトレフトの概念と、近年注目されている理由を解説します。
シフトレフトの定義と従来手法との違い
ウォーターフォール開発では、一般的に「企画→要件定義→設計→実装→テスト→リリース→運用」という順序で工程が進みます。
従来の開発では、このうち「テスト」や「リリース直前」の段階でセキュリティチェックが集中して行われることが多く、重大な脆弱性が発見された場合には大幅な修正が必要になり、スケジュールの遅延や追加コストの発生といったリスクが高まる傾向がありました。
これに対して、シフトレフトとは、こうしたセキュリティ対策やテストを、できる限り開発の初期段階に組み込むアプローチを指します。
たとえば、「要件定義」段階でセキュリティ要件を明確化し、「設計」段階では脅威モデリングを実施、「実装」段階ではセキュアコーディングを徹底するなど、各工程に応じたセキュリティ施策を順次実行していきます。
「シフトレフト」という名称は、セキュリティ対応を工程の“右側”(後工程)から“左側”(前工程)へと移行させることに由来しています。
この手法は、工程ごとの区切りが明確なウォーターフォール開発において特に有効であり、段階的にリスクを低減できます。
さらに、各プロセスに応じたセキュリティ施策を実行することで、問題の早期発見と段階的な修正が可能となり、最終段階での手戻りを抑えることで、安定したリリーススケジュールの維持にもつながります。
近年では、アジャイル開発などの他の開発手法にも、この考え方が取り入れられつつあります。
注目される背景と重要性
シフトレフトがなぜ注目されているのか、その背景と重要性について解説します。
- 開発サイクルの短期化
近年、開発サイクルは従来の数か月〜数年から、数週間〜数か月へと大幅に短縮され、迅速なリリースが求められるようになっています。このような短いサイクルでは、最終段階でのセキュリティチェックに依存していると、万一の手戻りによる影響が大きく、開発効率が著しく低下します。そのため、初期段階からセキュリティ対策を講じるシフトレフトが注目されています。 - サイバー攻撃の増加
サイバー攻撃は年々巧妙化・増加しており、セキュリティ対策の重要性が高まっています。警察庁の調査によると、令和6年のフィッシング報告件数は171万件を超え、Webを狙った攻撃が継続的に発生しています。こうした背景から、開発段階から包括的にセキュリティを組み込むアプローチが重要視されています。
参考:警察庁「令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
- セキュリティ人材の不足
経済産業省の試算では、2030年には約45万人のセキュリティ人材が不足すると予測されており、今後はより一層限られたリソースで効率的にセキュリティ対策を講じることが求められます。
その解決策のひとつとして、シフトレフトの導入があります。シフトレフトにより開発者自身がセキュリティを意識した設計・実装を行い、専門人材への過度な依存を減らすことが可能になります。
DevSecOps、セキュリティ・バイ・デザイン、シフトライトとの違い
シフトレフトと類似する3つの概念との違いを解説します。
- DevSecOps
開発(Development)、セキュリティ(Security)、運用(Operations)の各チームが連携し、セキュリティを含む高品質なソフトウェア開発を目指す体制や文化です。
シフトレフトは、DevSecOpsを実現するための具体的な手法の一つです。
DevSecOpsについては以下の記事で詳しく解説しています。
DevSecOpsでセキュリティと開発スピードを両立。メリット・導入のポイントを解説 - セキュリティ・バイ・デザイン
シフトレフトを実現するための中核的なアプローチが、セキュリティ・バイ・デザインです。これは設計段階からセキュリティを組み込む思想であり、シフトレフトにおける「どのように設計するか」という根幹を担います。
シフトレフトが「いつ実施するか」という工程管理の観点であるのに対し、セキュリティ・バイ・デザインはその実践において不可欠な設計哲学といえます。 - シフトライト
シフトレフトの対義語で、本番環境での監視やリリース後の継続的テストに重点を置く手法です。シフトレフトと組み合わせることで、開発から運用まで一貫したセキュリティ対策が可能になります。
シフトレフトのメリット
シフトレフトの導入により得られる主なメリットは以下の3つです。
コスト削減
シフトレフトの最大のメリットは、大幅なコスト削減効果にあります。一般的に、ソフトウェア開発では開発初期に発見された問題の修正コストを1とすると、テスト段階では10倍、運用段階では100倍のコストがかかるといわれています。
シフトレフトによって設計段階や実装初期に脆弱性を発見できれば、大規模な設計変更やテスト工程の繰り返しを避けられます。
また、リリース後に脆弱性が発見された場合の緊急パッチ対応や顧客対応、さらには損害賠償などのリスクも大幅に軽減されます。
参考:IBM System Science Institute Relative Cost of Fixing Defects
遅延リスクの削減
従来の開発手法では、テスト段階で重大な脆弱性が発見された場合、設計からやり直しが必要となり、プロジェクト全体のスケジュールに深刻な影響を与えることがありました。
特に、リリース直前の手戻りは、工数増加や納期遅延、さらには機会損失や信用低下など、企業にとって大きなリスクを招く可能性があります。
これに対し、シフトレフトでは、各開発段階で工程ごとにセキュリティチェックを行うことで、問題を早期に発見・対処できます。
その結果、後工程での大規模な修正が不要となり、プロジェクトの遅延リスクを大幅に抑えることが可能です。
品質向上
各工程でのセキュリティチェックを通じて、ソフトウェア全体の品質が向上します。
早期段階から脆弱性の作り込みを防ぐことで、より堅牢で信頼性の高いシステムを構築できます。
特にセキュアバイデザインや、実装段階でのコードレビューを行うことにより、SDLC初期からセキュリティを強化できます。
また、開発チーム全体のセキュリティ意識が高まる効果も期待されます。
従来コーディング担当者は機能要件として指定された項目をプログラミングしながら、属人的なセキュリティ対策を実装していましたが、非機能要件としてセキュリティ対策が明確にされることでより確実かつ組織的なセキュリティナレッジが蓄積可能となり、将来的な脆弱性の作り込みリスクも低減されます。
シフトレフトの具体的な実装方法
実際にシフトレフトを導入するための手順と、活用すべき技術について解説します。
開発工程への組み込み方
シフトレフトを実装するには、開発プロセスの各段階に応じたセキュリティ対策を計画的に組み込むことが重要です。
- 要件定義・設計段階
この段階では、セキュリティ要件の明確化と脅威の洗い出しを行います。
たとえば、情報の機密性レベルの定義、アクセス制御の方針策定、法規制やコンプライアンス要件の確認などが含まれます。また、脅威モデリングやセキュリティアーキテクチャレビューを通じて、システムのデータフローを分析し、潜在的な攻撃経路を特定します。 - 実装段階
セキュアコーディングガイドラインの適用や、コーディング規約の整備を行うことで実装担当者のリテラシ・セキュリティスキルを強化し、静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)を活用してコードの安全性を実装工程で確認します。
開発者がコードを書いた直後に脆弱性を検出し、早期に修正できる環境を整えることがポイントです。 - テスト段階
動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)を実施し、実行環境における脆弱性を検出します。
各段階に応じた手法を組み合わせることで、リリース前に実運用に近い条件で検証できます。
シフトレフトの主な手法
シフトレフトで使用される主要な手法について、それぞれの特徴と効果を紹介します。
- セキュアバイデザイン
シフトレフトの中核となる手法が、セキュアバイデザインです。
これは設計段階からセキュリティを体系的に組み込む手法であり、システムの構造やデータフローを分析して想定される脅威とその対策を検討します。
代表的なフレームワークとして「STRIDE(なりすまし、改ざん、否認、情報漏えい、サービス拒否、権限昇格)」があります。
開発初期に導入することで、リスクの可視化と設計の改善に役立ち、後工程での大幅な手戻りを防ぎ、堅牢なシステム基盤を構築できます。 - 静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)
ソースコードを実行せずに解析し、脆弱性を検出する手法です。
たとえば、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)といった一般的な脆弱性を、開発者がコードを書いた直後に発見できます。
ソースコードから脆弱になりうる記述を検出する仕組みであるため過検知が多くなる傾向があるものの、初期段階での問題検出が可能なメリットがあります。 - 動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)
実行中のアプリケーションに対してテストを行い、動的に脆弱性を検出する手法です。
実際の処理を経たアウトプットを基に脆弱性判定を行うため過検知が少なく、コンポーネント間の連携を考慮した問題も把握可能です。
一方で十分なテストシナリオの設定が必要となり網羅性考慮のコストが比較的高い手法となります。
インフラセキュリティの早期確保
シフトレフトを実現するうえで、アプリケーションの実装前にインフラのセキュリティを確保することは非常に重要です。
現在では、Infrastructure as Code(IaC)によるインフラ構築が一般化しており、設計・構築段階でのセキュリティチェックが可能になっています。
- IaCテンプレートのセキュリティ検証
Terraform、CloudFormation、Ansible などの IaC テンプレートに対して、セキュリティ設定の妥当性を検証します。
具体的には、過剰なアクセス権限、暗号化設定の欠如、不要なポートの開放といったリスクを事前に検出・修正することで、インフラレベルでの脆弱性を未然に防ぎます。 - コンテナイメージの脆弱性スキャン
コンテナベースの開発においては、使用するベースイメージやライブラリに既知の脆弱性が含まれていないか、事前にスキャンを実施します。
問題が検出された場合は、より安全なバージョンへの更新やパッチ適用を行い、リスクを最小限に抑えます。
実装の初期段階であるインフラは、アプリケーションよりも早いタイミングでIaCベースの検証やスキャンが可能です。
この段階でインフラのセキュリティを確保しておくことで、セキュアな開発基盤が整い、シフトレフトの効果を最大限に引き出すことができます。
シフトレフト導入時のポイント・注意点
シフトレフトの導入には、技術的な面だけでなく、組織体制や運用プロセスの整備も欠かせません。ここでは導入時に押さえるべきポイントや注意点を解説します。
チーム体制の構築と連携
効果的なシフトレフトの実現には、開発チームとセキュリティチームの密接な連携が不可欠です。
従来のように両チームが独立して作業するのではなく、プロジェクトの初期段階からセキュリティエンジニアが開発に参画し、継続的に支援する体制を構築する必要があります。
セキュリティチームは、単に脆弱性を指摘するだけでなく、開発者が理解しやすい形で修正方針を提示し、再発防止に向けた具体的なガイダンスを提供する役割も担います。また、セキュアコーディング研修の実施や最新の脅威情報の共有を通じて、開発者が日常の業務の中でセキュリティを意識して行動できるよう促すことも求められます。
さらに、プロジェクトの進行に合わせて定期的にセキュリティレビュー会議を開催し、要件の見直しや新たな脅威への対応を検討することも効果的です。
セキュリティテストの明確化
シフトレフトを効果的に実践するためには、各工程で実施すべきセキュリティテストを明確に定義することが重要です。
シフトレフトにおいて重視すべきなのは、自動化や効率化よりも、確実なプロセスの構築と手戻りの防止です。
セキュリティは非機能要件であるため、上流工程で要件を明確に定義することで、下流の担当者が抜け漏れなく対応できる体制を整えることが鍵となります。
- 要件定義段階:どのようなセキュリティテストが必要か、どの基準を満たすべきかを明確に文書化します。
- 設計段階:各コンポーネントに対する具体的なテスト手法と検証項目を策定します。
- 実装段階:コーディング完了時に実施すべきチェック項目を開発者に提示します。
- テスト段階:最終的な合格基準と検証プロセスを明示します。
このように、各工程におけるセキュリティテストの要件をあらかじめ定義しておくことで、担当者は何を確認すべきか迷うことなく、確実に対応が可能となります。
結果として、手戻りの防止と品質の安定化につながります。
効果測定の実施
シフトレフトの効果を明確に把握するには、適切なメトリクスを収集し、可視化することが重要です。
たとえば、セキュリティ問題の早期発見率、脆弱性の検出数、自動検査による修正時間(MTTR)などの定量的な指標を継続的に記録し、導入前後での変化を追跡します。
これらのメトリクスは、ダッシュボード上で視覚的に表示することで、シフトレフトの効果を客観的に示す材料になります。
たとえば、従来は運用段階で発見されていた脆弱性が設計段階で検出されるようになった割合や、緊急対応の頻度低下といった成果を、数値やグラフで表すことが可能です。
こうした定量的なデータは、経営層に対してシフトレフトの価値を明確に伝えるうえで有効であり、継続的なセキュリティ投資の意思決定を支える根拠としても活用できます。
まとめ
シフトレフトは、現代のソフトウェア開発において不可欠なセキュリティアプローチです。
開発サイクルの短期化やサイバー攻撃の増加といった現代的課題に対し、シフトレフトの効果を最大限に引き出すためには、専門的な知識と実装経験、さらに組織全体での体制づくりが欠かせません。
MBSDでは、ウォーターフォール型やアジャイル型など、お客様の開発体制に応じた支援を行っています。
経験豊富なセキュリティエンジニアやテクニカルコンサルタントが、アドバイザリ・レビュー・スクラムへの参画といった多角的なアプローチを通じて、開発初期からセキュリティ課題の早期解消に貢献します。
セキュリティに課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
関連資料のダウンロードはこちら
MBSD セキュリティ診断サービス
おすすめ記事