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セキュリティナレッジ

2025.12.11

DevSecOpsでセキュリティと開発スピードを両立。メリット・導入のポイントを解説

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が企業の競争力を左右する現代において、セキュリティと開発スピードの両立は多くの企業が直面する重要な課題です。
従来の開発手法では、リリース直前の脆弱性発見により大規模な修正や納期遅延が発生するリスクが常に存在します。

こうした課題を根本的に解決するアプローチとして注目されているのが「DevSecOps」です。

本記事では、DevSecOpsの基本から導入のポイント、よくある失敗とその対策まで、実践に役立つ知識を分かりやすく解説します。

DevSecOpsとは?

DevSecOpsの基本概念と、現代の開発現場でなぜ必要とされているのかを解説します。

DevSecOpsの定義

DevSecOpsとは、Development(開発)、Security(セキュリティ)、Operations(運用)の3領域を統合したソフトウェア開発ライフサイクル(Software Development Life Cycle: SDLC)におけるオペレーティングモデルです。
従来のDevOpsにセキュリティの視点を加え、価値提供・安全性・運用のすべてを継続的に実現可能なSDLCとして、2015年に Shannon Lietz(DevSecOps.org)が提唱しました。

DevSecOpsが必要とされる理由

ウォーターフォール開発は、厳格な要件整理・設計をもとに安定性を重視した工程駆動の開発方式であるのに対し、DevOpsは変化への柔軟性を重視した価値駆動のオペレーティングモデルとして普及してきました。
これに伴い、DevOpsと相性の良いアジャイル開発やインフラをコードで構築・管理するInfrastructure as Code(IaC)を採用する企業も増加し、開発サイクルの加速が進んでいます。

従来は、セキュリティテストを開発の最終段階で実施することが一般的でした。
しかしこの方法では、後工程で脆弱性が見つかった場合に修正対応が難航し、リリースの遅延や予算超過につながるリスクが高まります。

こうした課題を解決するアプローチが「シフトレフト」という考え方です。
これまで、特にウォーターフォール開発におけるセキュリティ課題の早期発見と対応コストの削減を実現するモデルとして「シフトレフト」が有効でした。

一方、アジャイル開発やIaCでは短いサイクルで開発と修正を繰り返すため、開発工程の上流/下流の概念が希薄化し、シフトレフトの実践が難しいと考えられていました。
また、従来の開発成果物に対するセキュリティテストというアプローチは「最後の砦」という価値提供から「アジリティを損ない継続的デプロイを妨げる要因」と捉えられていました。

これらの課題を背景に、開発や運用と同様セキュリティについても自動化を導入し、開発サイクル全体のガードレール整備を目指すDevSecOpsが提唱されました。
セキュリティテストも継続的な課題と位置付け、継続的に取り組むことでリリース前の局所的なボトルネックを解消し、安全性とアジリティの両立を実現する考え方として昨今注目を浴びています。

しかし、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」によれば、DevSecOpsをITシステム開発に活用している日本企業は1割未満にとどまっています。一方、アメリカでのDevSecOps導入率は5割を超えており、日本は導入面で大きく出遅れている状況です。その背景には、組織文化の変革への抵抗感や、セキュリティ人材の不足といった課題が存在します。

シフトレフトについては以下の記事で詳しく解説しています。
シフトレフトとは?開発コスト削減と品質向上を両立する手法を解説

参考:情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」

DevSecOpsとDevOpsの違い

DevOpsとDevSecOpsの最も大きな違いは、セキュリティが開発プロセスにどの程度統合されているかという点にあります。

従来のDevOpsでは、セキュリティは暗黙的に考慮されているものの、具体的な対策は後工程に回され、リリース直前にセキュリティ診断を実施するのが一般的でした。
そのため、脆弱性が発見された場合には、手戻りや納期遅延が発生しやすいという課題がありました。

一方、DevSecOpsでは、開発・運用・セキュリティの3チームが密に連携し、開発の各段階にセキュリティチェックポイントを設けます。
この体制により、セキュリティが開発工程に自然に組み込まれ、対応の抜け漏れを防ぐことが可能になります。
さらに、継続的インテグレーション(CI)にセキュリティテストを組み込み、コード作成の初期からセキュリティを意識した開発を行うことができます。

このように、DevSecOpsはセキュリティを開発プロセス全体に統合することで、従来の課題を克服し、より堅牢で効率的なソフトウェア開発を実現します。

DevSecOpsの各フェーズにおけるセキュリティ対策

DevSecOpsでは各開発フェーズで以下のようなセキュリティ対策が取り入れられています。

  • 企画/設計:脅威モデリング
    新規開発/機能追加を行うシステムに対して、アプリケーション/インフラのいずれにおいても考えられる脅威を可能な限り洗い出し、セキュリティ要件を明確にします。
  • 実装/デプロイ:テスト駆動開発
    洗い出した脅威をもとにテストケースを作成し、あらかじめ対策が有効であることを担保したコードを元に実装します。
    このプロセスで作成したテストケースをCI/CDツールへ組み込むことで、ナレッジが蓄積されたツールにより自動的にテストを実施することが可能になります。
  • 運用:ASM/CSPM/監視ソリューションなどの活用
    それぞれの製品から検出された検知結果を次回の脅威モデリングにフィードバックし、対策を継続的に改善します。

従来のセキュリティ対策では上記手法のいずれかの実施に留まることが多く、結果の精査やトリアージについても各手法の専門家による判断を軸に対策を推進するものでした。
DevSecOpsでは各手法の実施結果を相互に検証することによって、詳細な精査や検出後のハンドリングにかかるコストを大きく削減し組織的な検証結果に基づいた対策実施が可能となります。

DevSecOps導入のメリット

DevSecOpsの導入によるメリットには、主に次の4つがあります。

セキュリティと開発スピードの両立

DevSecOpsは、従来の「セキュリティを強化すると開発が遅くなる」というトレードオフを解消します。
シフトレフトによる脆弱性の早期発見に加え、開発・運用・セキュリティの3チームが常時連携する体制により、セキュリティ要件を事前に明確化できます。
開発者は初期段階からセキュアなコードを意識して実装でき、問題発生時の対応もスムーズに進みます。

また、CI/CDパイプラインにセキュリティテストを組み込むことで、コード変更のたびに自動チェックが実行され、手動テストによる待機時間を削減可能です。
運用チームとの連携により、本番環境へのデプロイ判断も迅速化し、全体のリリースサイクルを高速化できます。

コストの削減

DevSecOpsの導入は、シフトレフトによる早期対応に加え、部門横断の効率化とリスク低減によってコスト削減を実現します。

開発段階では、セキュリティ課題を早期に発見・修正することで大規模な設計変更を回避し、3チームによる事前合意によりレビューの重複や再構築も削減可能です。
運用段階では、セキュリティインシデントの発生リスクを低減し、事故対応コストや機会損失、ブランド毀損などの被害を防げます。セキュリティテストの自動化により、人的リソースの最適化も図れます。
さらに、メンバーのセキュリティ知識向上や内製化の推進により、外部診断への依存を減らし、継続的なコスト最適化が期待できます。

継続的な品質の向上

DevSecOpsでは、セキュリティ専門家から開発中に継続的なフィードバックを受けられる双方向のコミュニケーション体制が、品質向上の鍵を握ります。

従来は、開発完了後にセキュリティチェックを実施する一方向のフローが一般的でしたが、DevSecOpsではコード作成段階から即時フィードバックを得られるため、問題を早期に修正できます。
加えて、運用チームからの実運用データを開発にフィードバックすることで、実際の脅威に基づいた改善が可能になります。運用で検知された攻撃パターンを次回の開発に活かすなど、開発・運用・セキュリティの3チーム間での双方向のフィードバックループを通じて、アプリケーションの堅牢性と信頼性が向上します。

組織全体のセキュリティ文化の醸成

DevSecOpsのもう一つの大きなメリットは、「セキュリティは全員の責任である」という文化を組織全体に根付かせられる点です。

従来はセキュリティが一部の専門チームの管轄とされていましたが、DevSecOpsでは3チームが密接に連携することで、各メンバーがセキュリティを“自分ごと”として捉えるようになります。
開発者はセキュアコーディングのスキルを習得し、運用担当はインシデント検知能力を高め、セキュリティ担当は開発・運用の実情を踏まえた現実的な対策を提案できるようになります。
このような相互理解と協力の文化は、組織の長期的な競争力の源泉となります。

DevSecOps導入に必要なツールと組織体制

DevSecOpsの効果的な導入には、適切なツール選定と組織全体の文化変革が必要です。

DevSecOpsに適したツール

DevSecOpsの導入には、開発プロセスの各段階に適したセキュリティツールが必要です。
ここでは、DevSecOpsで使われる主要なツールを紹介します。

  • SAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)
    SASTは、ソースコードを実行せずに解析し、セキュリティ脆弱性を検出します。
    開発者がコードを書いている段階で脆弱性を早期発見できるため、修正コストを大幅に削減できます。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)などの一般的な脆弱性を効率的に検出可能です。
  • DAST(動的アプリケーションセキュリティテスト)
    DASTは、実際に動作しているアプリケーションに対してテストを実行し、脆弱性を検出します。運用環境に近い状態でのセキュリティテストが可能で、SASTでは発見できない実行時の脆弱性を検出できます。
    認証機能やセッション管理などの動的な処理に関する脆弱性の発見に特に有効です。
  • IAST (インタラクティブ・アプリケーション・セキュリティ・テスト)
    IASTは、アプリケーションの実行中に内部から脆弱性を検出するセキュリティテスト手法です。
    SAST(静的解析)とDAST(動的解析)の中間的な特性を持ち、実行中のアプリケーション内にエージェントを設置することで、コードレベルの詳細な情報と実行時の挙動の両方を解析します。
    SAST/DASTよりも誤検知が少なく、脆弱性の正確な位置を特定できるため、開発者にとって修正がしやすいという利点があります。

組織体制とプロセスの構築

DevSecOpsにおいては、技術的なツール導入だけでなく、組織全体でセキュリティを意識した開発文化を醸成することが重要です。

  • 3チーム連携体制の構築
    開発・運用・セキュリティの3チームが円滑に連携するために、各チームの役割と責任範囲を明確に定義します。
    たとえば、脆弱性が発見された場合の対応フローを「開発チームが修正→セキュリティチームが検証→運用チームがデプロイ判断」といった形であらかじめ決めておくことで、迅速な対応が可能になります。
    さらに、定期的な合同ミーティングを通じて情報共有や課題解決を継続的に行います。
  • セキュリティ教育とスキル向上
    全メンバーのセキュリティリテラシーを高めるため、体系的な教育プログラムを用意します。
    月1回のセキュアコーディング勉強会や、実例を用いたハンズオン研修、最新の攻撃動向に関する情報共有セッション、ツール操作に関する講習などを通じて、実践的なスキルを育成します。
  • 段階的内製化による自立性向上
    まずは外部の専門家と連携しながら基本的なセキュリティ対策を学び、段階的に社内でのセキュリティ運用能力を強化していきます。
    これにより、最終的には外部依存を減らし、組織独自の課題に対応できる柔軟な体制を構築します。
    資格取得支援や外部研修の受講支援といった人材育成への投資もあわせて行うことが望まれます。

よくある失敗とその対策

DevSecOps導入時に多くの企業が直面しがちな失敗例と、その対策を解説します。

ツール導入だけで満足してしまう

セキュリティツールを導入したものの、組織文化は変わらず、ツールの検知結果が放置されてしまうケースです。
この失敗の根本原因は、DevSecOpsを技術的な課題としてのみ捉え、組織変革の重要性を軽視している点にあります。

解決策としては、ツールの導入前に組織体制を整備することが重要です。
各チームにセキュリティチャンピオン(開発チーム内でセキュリティを牽引する人材)を配置し、継続的な教育やトレーニング体制を構築しましょう。

既存のセキュリティルールをそのまま適用してしまう

従来の厳格なセキュリティ承認プロセスをそのまま適用し、開発スピードが大幅に低下してしまうケースです。
この失敗の根本原因は、リスクに基づく優先順位付けが行われていないことです。

解決策としては、検出された脆弱性単体の危険度だけでハンドリングを行わず、攻撃難易度や運用/監視の結果から得られるテレメトリなども鑑みてリスクを評価し、優先付けて対応を進めることも重要です。
たとえば、攻撃者が能動的にシステムに対してインジェクションを行えるような脆弱性には即時対応とし、一般ユーザへの攻撃を要する受動的な脆弱性・攻撃の前提となる情報取得が必要な脆弱性などについては次回リリース時に修正するといった、段階的なアプローチが有効です。

チーム間の責任分担が不明確

脆弱性が発見された際に、3チーム間で責任の押し付け合いが起こり、迅速な対応ができないケースです。
この失敗の背景には、従来の縦割り組織文化がそのまま残っていることがあります。

解決策として、明確な責任分担表(RACI)を作成し、各タスクにおける責任者を明示しておきます。
あわせて、定期的に3チーム合同のミーティングを実施し、インシデント対応フローの共有と事前確認を徹底しましょう。

セキュリティ人材不足による停滞

社内にセキュリティ専門家が不足し、DevSecOpsの導入が進まないケースです。
この失敗の根本原因は、開発者に対するセキュリティ教育が不足していることです。

解決策として、段階的な内製化ロードマップを策定し、開発者向けのセキュリティトレーニングを継続的に実施します。
また、外部の専門家と連携しながら知識を積み重ね、徐々に内製化を進めていく体制を整えましょう。

まとめ

DevSecOpsは、従来の「セキュリティと開発スピードのトレードオフ」という課題を解消し、両立を実現する革新的なアプローチです。
開発プロセス全体にセキュリティを組み込むことで、セキュリティの強化だけでなく、コスト削減や品質向上といった多くのメリットをもたらします。

ポイントは、ただツールを導入するのではなく、開発・運用・セキュリティの3チームが密接に連携する組織文化への変革にあります。
まずは小規模なプロジェクトや基本的なツールから始め、段階的に拡大していくことで、よくある失敗を回避しつつ、継続的な改善サイクルを確立することが重要です。

DevSecOpsを効果的に導入するには、現状分析から組織体制の構築、継続的な改善まで、包括的な取り組みが求められます。

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